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札幌高等裁判所 昭和29年(ネ)17号 判決

控訴人 宮島明

右代理人 島田敬

被控訴人 中村龍三

右代理人 土家健太郎

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

理由

控訴人が昭和二十七年十月二十二日訴外五稜商事株式会社に宛て、金額十六万三千四百円、満期昭和二十七年十二月三日、支払地、振出地とも函館市、支払場所函館信用金庫なる約束手形一通を振出し交付したことは当事者間に争がなく、訴外五稜商事株式会社が右手形を拒絶証書作成義務を免除の上昭和二十七年十二月二日訴外田島産業株式会社に裏書譲渡し、同訴外会社がさらにこれを拒絶証書作成義務を免除の上同日被控訴人に裏書譲渡し、被控訴人が現にその所持人であることは、成立に争のない甲第一号証によつて明かであり、右手形が満期に支払拒絶となつたことは争のないところである。

そこで控訴人主張の抗弁について判断するに、右甲第一号証に、当審における証人鎌田貞己、宮島富和、宮島徳雄、原審における証人宮島富和、宮島徳雄(第一、二回)の各証言、当審における控訴人宮島明の本人尋問の結果及び当審における被控訴人中村龍三の本人尋問の結果の一部竝びに口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人は訴外五稜商事株式会社に金融を得させる目的で本件手形を振出し交付し、同訴外会社は被控訴人にその事情を告げて割引の斡旋方を委託し、被裏書人を指定せずして裏書交付したが、被控訴人においてついに割引を受けることができなかつたため、満期前控訴人と右訴外会社との間の与信契約は合意解除され、同訴外会社は被控訴人に対し割引斡旋の委任を解除して本件手形の返還を求めたところ、被控訴人はこれに応ぜず、満期の前日白地を補充せず且つ裏書をなさずして本件手形を訴外田島産業株式会社に譲渡し、さらに同会社から白地式裏書により譲渡をうけたことが認められるのであつて、被控訴人中村龍三の原審及び当審における各本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そうして、右の事実関係によれば被控訴人の本件手形の取得は手形法第七十七条第一項、第十七条但書の場合に該当するものと解するのが相当であるから、控訴人は本件手形振出の原因関係を欠くという訴外五稜商事株式会社に対する人的関係に基く抗弁をもつて所持人たる被控訴人に対抗しうるものといわなければならない。そうとすれば被控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れない。

よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田賢次郎 裁判官 山崎益男 臼居直道)

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